更新日:2022/2/5
薬理学実習(ACE)レポート
★作成時点での情報・記事であり,最新の情報ではありません。
【実験目的】
近年分子生物学の進歩により各種疾患の遺伝子解析が行われるようになり,遺伝子解析は重要な手法となってきている。分子生物学的手法を用いてアンギオテンシン変換酵素の遺伝子の多型性を調べることにより,遺伝子解析とはどのようなものであるかを経験する。
【実験方法】
1静脈血の採取・全血からのDNAの抽出
- 静脈血(2ml)を採血する。採血した血液はチューブ(5ml)に移す。
- エッペンドルフチューブにTE buffer 500µlと採取した全血100µlを加え混ぜる。
- 残った血液は30分放置後,3000rpmで10分遠心し,血清を4℃で保存する。
- 13000rpmで10秒遠心する。
- ペレットを残し,上清を除き,新たにTE 500µlを加え,13000rpmで10秒遠心する。この操作をさらに2回繰り返す。
- 最後のペレットにK buffer 100µlを加え,water bathにて56℃で45分間加温する。
- さらに95℃で10分加温後,flash spinする。
- 10µlをPCRに使用し,残りは-20℃で保存しておく。
2PCR法
- PCR用チューブ(ふた付き)に次のものを加え100µlにする。
DNAサンプル |
PCR mixture |
Taq polymelase |
合計 |
10.0µl |
89.5µl |
0.5µl |
100µl |
- PCR programが以下のようになっているのを確認しスタートする。
94℃(3min) |
58℃(1min) |
72℃(2min) |
1 cycle |
94℃(1min) |
58℃(1min) |
72℃(2min) |
29 cycle |
|
|
合計 |
30 cycle |
- 終了後,冷凍保存しておく。PCRにて増幅したDNAを次にアガロースゲル電気泳動にて分析する。
3血圧の測定
4アガロースゲル電気泳動
- あらかじめ用意されていたゲルを泳動装置に装着し,1×TAEを満たす。
- DNAサンプル3µgをTAE,loading bufferと混ぜ,精製水を加え10.0µlとし,マイクロピペットを用いてゆっくりとゲルのスロットに注入する。マーカー5DNAサンプルも同様に計算し,両端のスロットに10µl注入する。
DNAサンプル |
×50 TAE |
×6 loading buffer |
精製水 |
合計 |
3.0µl |
0.2µl |
1.0µl |
5.8µl |
10.0µl |
- 泳動槽にエチジウムブロマイド25µlを加える。
- 100Vで約30分間電気泳動する。
- トランスイルミネーターの上にサランラップを敷き,ゲルをおいてポラロイドカメラで撮影し,分子量のわかっているサイズマーカーDNAと比べてDNAバンドのサイズを求める。
5血清中のアンギオテンシン変換酵素(ACE)の測定
- 検体用試験管とブランク用試験管にそれぞれ4℃で保存していた血清を0.1ml分注する。
- 基質液およびブランク用基質液を37℃で3分間加温する。
- 検体用試験管とブランク用試験管に2)で作成した基質液を0.5ml分注する。
- 混和後37℃で20分間インキュベートする。
- それぞれの試験管に反応停止発色液を1.5ml加える。
- 混和後37℃で3分間インキュベートする。
- 精製水を対照として,波長505nmでそれぞれの吸光度を測定する。
- 次の計算式からACE活性値を求める。
[血清ACE活性値の計算式]
血清ACE活性値(IU/I)=(A-B)×87.5
(A:検体の吸光度,B:試薬ブランクの吸光度)
【実験結果】
No. |
3 |
4 |
9 |
14 |
16 |
18 |
26 |
高血圧 |
- |
+ |
- |
- |
- |
- |
+ |
ほかの疾病 |
+ |
- |
+ |
- |
- |
- |
- |
ACE activity |
24.52 |
14.26 |
12.11 |
23.29 |
14.32 |
21.59 |
5.41 |
血圧(高/低) |
90/66 |
97/46 |
116/58 |
108/60 |
118/65 |
102/65 |
132/88 |
ACE遺伝型 |
DD |
II |
DI |
DD |
DI |
DI |
DI |
No. |
28 |
30 |
31 |
32 |
38 |
47 |
55 |
高血圧 |
- |
+ |
+ |
+ |
- |
- |
+ |
ほかの疾病 |
+ |
- |
+ |
+ |
- |
+ |
- |
ACE activity |
14.84 |
14.00 |
5.15 |
7.80 |
9.80 |
8.95 |
5.21 |
血圧(高/低) |
114/62 |
112/88 |
116/60 |
100/70 |
140/90 |
116/58 |
112/82 |
ACE遺伝型 |
II |
DI |
DI |
DI |
? |
DI |
DI |
No. |
56 |
63 |
71 |
72 |
75 |
80 |
96-30 |
高血圧 |
- |
+ |
+ |
- |
+ |
+ |
+ |
ほかの疾病 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
ACE activity |
9.47 |
6.34 |
21.70 |
21.29 |
11.42 |
8.21 |
6.55 |
血圧(高/低) |
118/78 |
120/65 |
125/75 |
125/70 |
118/68 |
112/74 |
130/96 |
ACE遺伝型 |
DI |
DI |
DD |
DD |
DI |
DI |
DI |
ACE遺伝型の不明であったNo.38を除く20人について,ACE遺伝型のそれぞれの割合とACE活性値の平均を求めると次のようになった。
ACE遺伝型 |
割合(%) |
ACE活性値(U/L) |
DD |
20 |
22.86 |
DI |
70 |
9.75 |
II |
10 |
14.73 |
【考察】
まずACE遺伝型,血漿ACE濃度,血圧と家族歴の互いの相関性について考える。
◇ACE遺伝型がDDである人(4人)
血漿ACE濃度が平均的に高く,全員が20U/Lを超えている(相関性あり)。血圧については,4人とも平均的な値を示しており,ACE遺伝型と血圧との間に相関性はみられない。家族歴についても相関性は特にみられない。
◇ACE遺伝型がDIである人(14人)
血漿ACE濃度が全体的に低く(平均9.75U/L),その値の範囲も5〜14U/Lと幅広く分布している(相関性なし)。血圧については,上が100〜130,下が60〜90で極端な値はみられない(相関性なし)。高血圧の家族歴を持つ人は,やや高い血圧を示している傾向があると思われるが,あまり明瞭ではない(相関性なし)。
◇ACE遺伝型がIIである人(2人)
血漿ACE濃度は,14U/L程度でACE遺伝型がDIであるグループよりも高い値を示している(相関性なし)。血圧については平均かそれ以下を示しており,ACE遺伝型と血圧との間に相関性がある可能性がある(相関性なし)。家族歴については相関性は特にみられない。人数が2人であったため,あまりはっきりとした相関性があるかどうか判別しがたいように思われる。
(まとめ)
ACE遺伝型と血漿ACE濃度は相関性があると思われるが,今回の実験ではDD型の人を除き,あまりはっきりとした結果が出なかった。血圧と家族歴についてはACE遺伝型との間に相関性があるとは思われない。
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